「何日食べてないかわかるかい?」
「…」
「思い出せない?」
「…」
「まあ無理もないよ。君はこの窓も何もない部屋の中で十年過ごしてしまったんだからね。僕が開発したこの空気には一日に必要な栄養分が含まれていて、何も飲まず食わずでもこの空気を一日中吸ってさえいれば生きられるんだ」
「…」
「ああごめん。つい説明したくなってしまってね。毎日毎日うるさくしてごめんよ。君は僕の忠実な助手としてこの開発の実験台になってくれたというのに…」
「…」
私は黙りながら首を横に振った。
「ありがとう。君は最高の助手だよ。…僕はそんな君にだからこそ頼みたい。一生をこの部屋で過ごしてみてくれないか?何にもない部屋で悪いんだけど、是非この空気で人は一生を生きられるか試してみたいんだ。…もう十年も経ってしまっているけど…」
「…」
少し間を置いて、言った。
「あなたもこの部屋で十年、ひとりで生きればいいわ」
「…え…」
「その間、管理も操作も何もかも全てのことは私に任せてくれればいい。あなたは助手が私しかいないから全てのことを教えてくれたわね?だから実験台になるのはあなただろうが私だろうが同じ。あなたがちゃんと十年間この空気で生きられたらあとは私がかわって一生を過ごしてあげる」
「…いや、それは…」
「助手が実験台にならなければいけない決まりなんてないわ。そうよね?なに、十年経てばまた私がかわるのよ、しかも一生。私だけが実験台になるのが嫌なだけなの。あなたも同じように実験台になって欲しいだけなのよ。同じ十年間ね。あなただって自分が開発したものが実際どんなものなのか知りたいでしょう?自分の身で一度確かめた方がいいと思うわ。私が十年生きられたんだもの、あなただって大丈夫よ」
「…そ、そうかも知れないが…ああ…うん、わかった。僕も助手の君ばかりに頼ってしまって悪かった。自分でもやらなきゃいけないとわかってはいたのに…。すまない」
「いいのよ、わかってくれたのなら。やっぱりあなたは最高の博士よ。あなたについていて良かった。じゃあ、あとは私に任せて十年間、頑張って」
「ああ。この部屋の鍵も渡しておく。中からは開けられないから僕が持っていても仕方ないしね。あ、鍵は掛けたければ掛けてくれ。どうせ十年間ずっとこの部屋からは出ないからね。十年経ったら開けてくれ。経たない内に死んだりしないでくれよ」
「わかってるわ。私だってそんなにやわじゃないわよ。毎日来なくていいのね?それじゃ、十年後に」
「ああ」
そして私は部屋を出て鍵を閉め、更に厳重に扉を固定し開かないようにしたら、地下にあるこの部屋の装置を全て壊した。
他の研究材料も操作できるものは全て壊し、何もなくなり残っているものはあの部屋の中にいる人物のみとなった。
私はこの場所を振り返らずにあとにした。
-----
博士と助手