私はいつも通学の途中、細い林道を利用しております。杉の木が何本も真っ直ぐ生えております。たまにこの木々が何本あるのか数えようという気になります。しかし数えようとしてみると、何故か止めたくなるのです。そういうことが私は度々あります。迷いもなく天へのびているあの木々を見ると、つい足を止め見つめてしまいます。学校は別に遅れたって構いやしません。あんなところにいるより、ここでそうやって高い杉の木を眺めるほうがよっぽど健康的だと思います。だから私は公道を通らず、むしろ学校から少し遠くなるけれどその林道を通るのです。
ところが、一週間も前のことです。私はいつものようにやわらかな追い風とその林道を通っていました。そんなに長くもないその道を少し行ったくらいでしょうか、いつもと違いました。私の目に、何か黒いかたまりが飛び込んできました。不審に思いました。しかしそれは「物」で動く気配はなく、道の真ん中に置かれているといった状態でした。近寄ってみると、それはおそらく車に轢かれた黒猫だとわかりました。こんなところにあるということは誰かがここに置いて行ったということです。それはこの黒猫を轢いた本人かも知れないし、車道に横たわる猫の死体を見かねてとりあえずここへ置いていった人かも知れません。しかしそんなことは私にはどうだって良かったのです。ここへ来たのなら、どうしてこのままにして行くのでしょう。なぜ埋めていってやらないのでしょうか。こんな道の真ん中に置いて人の目に晒すなんて、何を考えているのかわかりません。私は通学かばんを端に置き、死体を抱きかかえました。腐臭がしました。その時、もしかしたら置いていった人はこの匂いが堪えられなかったのかも知れない、と思いました。それなら仕方がありません。それなら、轢いた人がこの黒猫のことを忘れずにいて欲しいと願いました。
私は道をそれ、少し奥へ入りました。私の膝くらいまでのびた草が生い茂っていました。適当なところで死体を置いてその草をある程度むしり、露になった地面を掘りました。爪に乾いた砂が入りましたが、構わず続けました。その黒猫がすっぽり入るくらいで止め、ゆっくりそこへ死体を置き、掘った砂を全てかけました。少し山になって、ここにはなにか埋まってるとわかるような感じでした。私は立ち上がり、手を合わせました。そしてかばんを取りに戻って、迷わずそのまま帰りました。


私は今部屋の真ん中に寝転がって時間を持て余しています。今日は祝日なので学校は休みです。なんとなく天井を見つめておりました。今は昼下がりで天気がよく、やわらかい風が網戸から入ってきました。そして今あの出来事を思い出しました。あれから一度も林道を通っていません。不思議と、足が公道を歩いていくのです。何故でしょうか。自分のことなのにわかりません。でも、先ほどの風のお陰で、林道のあの心地よい雰囲気を思い出したからか、明日からはまた林道を使って通学しようという気になりました。決心しました。
気付いたら、左目からなみだがこぼれていました。

そうして、私は静かに瞼を下ろしたのでした。
---

初夏